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日本語教師こぼれ話 2009年

『教室で学ぶこと』

 今年もサウジアラビアからの国費留学生がこの学校で勉強している。私の担当しているクラスは中国、韓国とサウジアラビアの混合クラスである。
 8月後半のある日、授業の休み時間に一人の中国人学生がサウジアラビア人学生にチョコレートをすすめたときのことである。普段であれば、彼はありがとうと言って、受け取るのだろう。しかしそのときは「すみません。今はラマダンだから、イスラムの人は食べません。」と答えた。私は「しまった、ラマダン(断食)が始まったことをまだクラスで言ってなかった」と思いながらも、中国人学生がどんな反応をするのか興味があり、何も言わず見ていた。「ラマダン?」中国人学生がわけが分からず困っていると、他のサウジアラビア人学生がつたない日本語でクラスのみんなにラマダンについて説明してくれた。すると、それを聞いた先ほどの中国人学生は自分の知らない文化にびっくりしたようだったが、「じゃあ、私も休み時間に食べません。」と言い、チョコレートを食べるのをやめたのである。
 私はその学生の思いやりに感心するとともに、とても面白いと思った。中国の人が日本へ日本語の勉強をしに来て、サウジアラビアのラマダンについて知ったのである。どこでどんな出会いがあるか本当にわからない。
 こんな経験ができるのも日本語学校のいいところだ。だから、学生には日本語や日本の文化を学ぶだけでなく、世界のいろいろな考え方に触れ、自分の視野を広げていってほしいと思う。そして、教師である私も学生同士がお互いを理解し、助け合う雰囲気をクラスの中で作っていいきたいと思う。(土田)

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『「どう」伝えるか』

 「先生、寒いです。」  もしこの言葉が、夏のある日、日本語を勉強し始めて間もない学生から発せられたものだったら、私はそのメッセージを笑顔で受け止め、エアコンを消し、そして、学生とのコミュニケーションが成立したことをうれしく思うだろう。でも、その言葉を発したのは、上級レベルの学生だった。私は「その言い方は、どうでしょうか。考えてください。」と、その学生のメッセージを受け止めなかった。
 現在、初級から上級レベルまでの様々な学生と関わっているが、それぞれのレベルで学生が「目指すべきコミュニケーション」の違いを改めて感じている。初級前半の学生は、言いたいことを日本語で言えるようになること。それが大切で、それが出来るように彼らを指導し、またそれが出来た彼らを「よくできた!」と評価する。
 しかし、初級の学習が終わり、中級以上に進んでいく学生は「伝えたいことを伝える」だけではいけない。相手を思いやる態度を見せながら、また立場と場面を考えて「言葉を選ぶ」ことが求められ、またそれが出来るように指導することがとても大切だ。
 日本人同士であっても、「話し方」で相手を評価することがあるように、学校を出れば学生達もその評価の対象になり得る。下手をすれば、「冷たい人」「失礼な人」「きつい人」などと誤解されてしまうかもしれない。そんな場面を減らすためにも、日本語教師は「表現の仕方」だけではなく「表現の受け止められ方」も学生に伝えることが必要だと感じている。
 私に「先生、寒いです。」と言ってきた学生が、数分後再度、「先生!」と呼んだ。「あの、少し寒いので、エアコンを消して…いただいても…よろしいでしょうか。」たどたどしかったが、私はうれしかった。そして、笑顔でその言葉を受け止め、エアコンを消した。(大浜)

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『ガイジン』

 私が担当している上級クラスの授業では、ジェンダー、教育、雇用など日本の現代社会の様々な問題について考えています。最近のテーマは「日本の外国人」で、「日本で暮らす外国人について考える上でのキーワード」を自由に挙げてもらったところ、気になる言葉が挙がりました。
 『差別』『ガイジン』『タメ口』。まず『差別』を挙げた学生に聞いてみました。
 「日本は外国人に対する差別が激しいという話を聞きますが、そんなことはありません。皆さん親切に優しく接してくれて、差別の“さ”の字も感じません。」
 ところが次の瞬間、クラスメート達から一斉に反論の声が!
 「それはたまたま、あなたが恵まれているだけだ!」「差別がないなんて、あり得ない!」  話を聞いてみると、彼らが感じる『差別』には、外国人として不当に扱われるということと、日本語が不自由=子供=日本の同世代とは区別されるということがあるようです。
 「客として入った店で応対した店員が、自分たちが外国人だとわかった瞬間、急に態度がぞんざいになったり、自分を子ども扱いしたりした。他の客には丁寧に接客しているのに、なぜ自分にはタメ口で話すのか?日本語がわかるのに、なぜ子供に話しかけるような口調なのか?」
 「アルバイト先で自分が注文を聞こうとしたら、客の日本人に名札をジロジロ見られ、『あんた、ガイジン?』『日本人の店員呼んできて!』などと言われた。悪いことは何もしていないのに、日本人に替われと言われるのは納得がいかないし、『ガイジン』という響きにもどこか排他的な感じがして好きになれない。」
 私はそんな話を聞いて、胸が締め付けられる思いがしました。彼らが日本で生きていく上でこうした差別的な扱いを受けることが今後もあるかもしれません。異国の地で懸命に生きている彼らが差別を感じる場面が減るよう願ってやみません。と同時に我々日本語教師も、彼らが「大人」であることを忘れず、一人一人を尊重しなければならないと改めて考えさせられた授業でした。(滝沢)

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『終わり良ければ・・・・・・?』

 上級クラスの学生が、進学のための面談を申しこんできた。彼女がくれたメモは、流暢な日本語に、敬語の使用もバッチリ。「さすが上級!」と思いながら最後まで読むと。
 「・・・先生、お忙しいところ、申し訳ございます。 ○○←(名前)」
 ・・・・・・。何度読み返してもやっぱり「ございます。」
 就職先の上司宛の手紙でなくて、よかった。
 中上級の作文のクラスで、意見を述べる「~だろう」を教えた時のこと。テーマは「環境問題」。ある学生は、ゴミを減らすことについてかなり突っ込んだ、面白い意見を書いてきた。言葉の使い方もなかなか上手だ。しかし、最後の一文。
   「・・・一人ひとりが、気を付けるべきだろうか。」
 ・・・・・え?じゃあ、何をするべき?
 予想と違う結末に、私が前半部分の解釈を間違えたのかと思い、もう一度読み直してしまった。
 書いた本人にしてみれば、「ただ、最後のひらがなを1つ、2つ書き間違えただけ」。でも読んだ日本人に与える、大きな動揺。
 やっぱり終わりは、大切。(勝間田)

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『大学院進学説明会』

 6月のある土曜日、お台場の東京国際交流館で、「留学生のための大学院説明会」が行われました。千駄ヶ谷にも来年大学院進学を目指している学生たちが多数いるので、引率して行って来ました。
 この説明会は、各大学院の教授や留学生担当の事務の方が来て、個別にブースを構え、相談にのってくれるというものです。大学院進学を希望している首都圏中の日本語学校生が集まるため、会場内はまるで朝の高田馬場駅のようなこみようでした。
 ですが、学生たちは混雑に負けず各大学院のブースに行き、それぞれ収穫があったようです。「研究したいことを説明したら、うちの大学と合っているので受験してみたらと言われました。」「考えに入れていなかった大学だけど自分の研究したいことがありそうなので、今度は研究科の説明会に行ってみます。」「昨年日本語学校を卒業して進学した留学生から、とにかくチャレンジしないと始まらない、と励ましてもらいました。」など、生き生きと話してくれました。
 大学院は、7月から9月に出願の最初のピークを迎えます。説明会で様々なことを得て、準備にもより熱が入ると思います。(早川)

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『進学のその先』

 日本語学校の学生が日本語を学ぶ目的の一つに大学進学がある。そのような目標を持つ学生と話していると、私自身が高校生だった頃のことを思い出す。
 「なぜ○○大学の△△学部に行きたいのか。」
 「大学を卒業してからどんな職業に就きたいのか。」
 「なぜその職業に就きたいのか。」
 などについて学生と考えるとき、私が高校生や大学生だった頃、このようなことを真剣に考えたのだろうかと思うことが多い。果たして、自分は人のことを言えた義理なのか、と。
 それなりに学びたいことがあって大学を選び、最初の就職をし、転職をして今の仕事に就いた。いずれの仕事も学んだことが何らかの役には立っているのだと思う。しかし、大学を卒業するまでに、「就職するということ」「働くということ」についてどの程度真剣に考えていたのだろうかと思うと、恥ずかしながら自信を持って言えないのである。
 日本語教師の仕事は、学生が大学に合格し、日本語学校を卒業してしまえばそれで終わりなのかもしれない。また、大学合格という結果が得られればそれでいいのかもしれない。しかし、大学卒業後の自分自身についても十分に考えておく必要があることを伝えていかなければならないのではないかと思う。大学卒業間際に慌てて考えて失敗してほしくないからだ。
 自身の反省も込めて、少しでもこのことについて考える時間を持ってもらうために学生に問い続け、共に考えていきたいと思う。(阪上)

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『バーベキュー遠足の楽しみ』

 先週末、毎年恒例となっているバーベキュー遠足が行われた。遠足というのは学生にとっても教師にとっても青空の下でのいい気分転換となり、またクラスの親睦を深める絶好の機会である。私にとっても、今回が3回目の参加となり、バーベキュー遠足ならではの楽しみ方が徐々にわかってきた。肉や焼きそばが味わえるのはもちろんだが、教室とはまた違った学生一人一人の個性がたっぷりと味わえるのだ。
 ある学生がバーベキュー用の器材を組み立てだしたとたんに急に頼もしくなったかと思えば、ある学生は肉を焼き始めると同時に目の色が変わり、なべ奉行ならぬバーベキュー奉行となる。また、その横で家から秘伝の焼肉のタレを持って来て配り出す人もいれば、おもむろに大きなタッパーの大量の白いご飯を見せつけるという用意のよすぎるタイプもいて笑ってしまう。いつものんびりしているタイプの人が手際よく包丁を扱っているかと思えば、バーベキューには一切ノータッチでデジカメを手に走りまわっている人もいて、そのギャップが面白い。また、これも恒例だが、お箸を持って座ったままビシビシと指示を出す女子学生・・・。食べ終われば年長者が号令をかけてみんなを動かし、見事に片付け仕事を分担する。その後のゲーム大会では、普段は冗談を言わないような人がおどけ、温厚なタイプと思い込んでいた人が負けず嫌いをむき出しにする・・・。
 こんなにも個性がキラキラとはっきり見られる楽しいイベントはないのではないかとさえ思う。そうして迎えた遠足明けの今週、クラスの雰囲気はさらに和んだように思える。今後も一人一人がより個性を出してくれるのだろう。遠足後の楽しみはこれからだ。(廣比)

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『卒業式』

 先日、2008年度の卒業式を無事に迎えることができました。
 予想外のハプニングもありましたが、とても良い式でした。
 テープで壁に止めた垂れ幕が式の最中にはがれ落ちたらどうしようと最後までハラハラしながら見守るスタッフ一同の顔、卒業生代表に選ばれ挨拶を予定していた学生がジーパン姿で現れた時、その学生を正装に着替えに帰らせる教師の苦笑いする顔。
 いつもジャージ・短パン・サンダルがポリシーの女子学生がなんともきれいな女性に大変身して登場した時、拍手喝采が鳴り響く中「驚」喜するみんなの顔。卒業生の感動的なスピーチが会場の涙を誘い、生徒の巣立ちを見送る教師たちの、期待しながらもどこか寂しげに見える顔。
 クライマックスは何と言ってもパーティーで披露された学生たちが作ったオリジナルスクールソングでした。ユーモラスなタッチで描いた、二年間の留学生活を綴った歌詞に会場から絶え間なく爆笑歓声が湧き上がりました。
 笑う顔、涙ぐむ顔、感謝を告げる顔、別れを惜しむ顔、いろいろな顔が心に残る感動的な卒業式となりました。(尹)

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『ダイエット』

 日本に留学すると、男子学生はやせる、女子学生は太る、とよく学生に言われます。
 私は外国に留学したことがないのでよくわからないのですが、男性は自分で料理を作らないからやせるそうで、それはわかる気がします。はずかしいけれど、今の私もそう…。女性が太るのはどうしてでしょう?料理が作れない私だったら、留学したらどんどんやせさらばえてしまいそうです。
 では、日本に留学している女性の敵は何かというと、パンなのです。菓子パンや食パンなど、日本のパンはとてもおいしいそうです。食パン1斤を一気に食べてしまったという学生もいました。特にコンビニのパンはおいしくて、つい食べてしまい、「4キロ太った」「10キロ太った」「日本へ来て丸くなった」など、乙女たちの嘆く声を聞きます。
 そんな学生も、国にいたときは、けっこうダイエットの経験があるようです。  先日、授業で健康の話題になったとき、「どんなダイエットをしたことがある?」と聞いてみたら、いろいろ話をしてくれました。  私が一番びっくりしたダイエットは、韓国の女子学生がしたという「ワンフードダイエット」です。1つの食品しか食べないダイエット方法だそうです。
 私は興味津々で「そのひとつだけの食べ物は何?」と聞きました。
 学生「ビール」
 ビール?ビールは食べ物じゃないんじゃないのかな…。食事がビールだけって、むしろ体に悪いんじゃないのかな…。アルコール中毒にならないのかな…。様々な疑問が私の頭の中を駆け巡り、「本当にビールなの?」と確認しました。でも、学生は平然としています。効果はどうだったのか、ますます興味は募ります。「それで、どうだったの?」
 学生「3日飲み続けたら、顔が黒くなってきたので、やめました」
 えっ、ビールを飲み続けると顔が黒くなるんですか?!
 私は決してスマートではないけれど、ダイエットをしてみたことがありません。よく韓国では見た目をとても大切にすると聞きます。ダイエットをしたことがある学生が多いのも、そんな考え方と関係があるのかもしれませんね。
 さて、先ほどの「ワンフードダイエット」の学生、最近またワンフードダイエットを始めたそうです。今度は「キャベツ」だそうです。なんだか青虫みたいです。効果はあったのか、また今度聞いてみようと思っています。(小川)

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『先生は何でも知っている?』

 とにかく、学生は何でも聞いてくる。
 “日本語の先生=生活便利帳”という文字を以前どこかで見たような気がするが、本当にその通りだと思う。
 「郵便局で郵便を送るとき、何が一番安いですか。」
 「証明写真はどこでとったらいいですか。」
 東京のお土産はどこで買えますか。何がおすすめですか。」
 など生活に関する情報なら「ああ、それは・・・」と調べてこたえることもできるのだが、
 「どうしてアメリカ大統領のニュースが多いんですか。」
 「今日の人身事故の原因は何ですか。」
 「東京はいつ雪が降りますか。」
 「円はいつ安くなりますか。」
 「両替するなら、今日より明日のほうがいいですか。」
 こうなると、ほとんど「おそらく・・・」「何でだろうね」と学生と一緒に考えることに なる。最後の質問(?)には「んー、明日は、今日より安くなっているといいねぇ」としか答えられなかったが、現在(2009年1月)のレートを考えると学生にとっては切実な問題なのだろう。
 学生たちからの様々な質問のおかげで、日本語以外の情報に触れる機会がぐんと増え、自分自身の勉強にもなっている気がする。(木島)

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『雨の遠足』

 2008年12月17日、遠足でバスに乗って富士山の近くにある遊園地へ行った。前日までしばらくいい天気が続いていたが、当日は出発時から雨。遊園地に近づくにつれ、雨はますます強くなり、車内中からため息や「本当に行くんですか?」という声が聞こえ、暗い雰囲気に包まれた。引率する私も、つらい気持ちだった。
 遊園地では雨のため、多くの学生が楽しみにしていたジェットコースターの類はすべて運休で、私たち以外の来園者はまばらだった。冷たい雨と寒さが一層寂しさを感じさせる中でのスタートとなった。
 ところが、私の予想に反して、遊園地での学生達は元気で活発だった。園内至るところで写真を撮ったり、お化け屋敷に行ったり、家で作ってきたお弁当をみんなで分け合って食べたりして笑い声が絶えなかった。
 帰る時には「残念だったけど、楽しかった」「みんなで来てよかった」「思い出が作れました」といった感想が聞かれ、その声に救われた思いがした。学生たちにとっては友達と遊びに行く貴重な機会だ。私も来てよかったと感じた。
 次の日、朝から天気は快晴だった。昨日は楽しかったなと思いながら学校へ行くと、学生達は口々に「昨日だけ雨なんてひどい!」「昨日遠足に行ったのが悔しい」「今日は雨のほうがよかった」と残念そうに言っていた。やはり遠足は晴れているに越したことはない。次回はもっと早くから、てるてる坊主を作ろうと思う。(本多)

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