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日本語教師こぼれ話 2020年

伝えることへのチャレンジ

日本語を教える仕事に就いて、「伝える」ということの難しさを感じています。

以前、ロシア人の学生から「楽しいとうれしいと何が違う?」と質問を受けました。当然、楽しいとうれしいは日本語の母語話者なら、間違えることなく使いこなしますが、学生はそうではありません。そのような時、言葉で説明すると学習者は混乱するケースが多くあります。その言葉でしか使えない状況を設定し、例文を複数挙げてわからせる方法を取ることが多いです。例えば、「誕生日プレゼントをもらいました。うれしいです。(×楽しいです)」、「みんなでゲームをしています。楽しいです。(×うれしいです)」、それに加えて、感情にかかわる表現の場合、例文を提示すると同時に「じゃあ、○○さん、どんな気持ち?」と問いかけ、学習者にイメージさせます。学習者の「あっ」という表情を見逃さずに「そう!それが『うれしい』です。」という具合に教えています。状況を提示して、学習者の心の動きを注意深く観察しながら、腑に落ちた瞬間にその感情と言葉を結びつけるのです。その後、学習者から「彼女が出来ました。うれしいです。」「遠足は楽しいです。」という例文が出てきました。ここでひとまず導入は終わりましたが、別の機会に、その言葉が出てきたときには、その都度確認するようにしています。

こういうことが日常的にあるので、日本語教師は言葉に対する感覚を日ごろから磨いておく必要があると思っています。(齋藤 奨)

今日は「は」きれいですね

「先生、今日『は』きれいですね」と最初に学生に言われたときは頭が真っ白になりました。そのとき私は日本語教師デビューをして1か月しか経っていませんでした。新人の私には学生の単純な助詞のミスだとは気づけるはずもなく、大真面目にショックを受けてしまいました。「今日「は」きれい?今日だけ??私、この学生に何か悪いことしちゃったかなあ…」なんてことを頭の中でぐるぐる考え、苦笑いをするしかありませんでした。

学生も何かを感じ取ったのか、妙な空気が流れてしまったとき、「今日『は』きれいです?じゃあ、昨日はきれいじゃありませんでしたか?」と教室の中にいた先輩講師がとっさにフォローしてくれました。学生はその瞬間「あっ!」と言って恥ずかしそうに照れ笑い。「いつもきれいです。昨日『も』きれいでした。じゃあ、今日…?」という先輩講師の問いかけに「今日『も』!!」と顔を真っ赤にして答える学生を見て、私は思わず「なるほど!!」と口に出してしまいました。そのあと学生は「先生すみません。今日『も』きれいですね」と申し訳なさそうに訂正してくれました。

このとき、学生は正しい助詞の使い方を、私は学生自身に考えさせる指導方法を学ぶことができました。このように、日本語学校は学生だけでなく、教師にとっての学びの場でもあるのです。(川久保)

日本の「今」を知りたい!

先日、授業前に、ある学生から「先生、『マンジ』って何ですか?」と聞かれました。アルバイト先の日本人学生がこの言葉をよく使うため、意味が知りたいとのことでした。私は、もしかして…と思いホワイトボードに「卍」と書くと、その学生が「それです!!」と言いました。

これはお寺の地図記号としてお馴染みのものです。しかし最近の若い人、特に女子高生は何かを強調するニュアンスで使うことがあるようです。私はこれを聞いたことがあったので、この言葉を使う様々な場面を提示し、学生に伝えました。学生は「卍、難しい~」と言っていましたが、日本の若者言葉を知ることができ、とても嬉しそうでした。

このような若者言葉は教科書には教えるべき言葉としてほとんど載っていないので、授業準備として予習しておくことは滅多にないかもしれません。しかし、今回のように雑談の中で急に意味を聞かれることがあります。他にも、日本で最近人気がある俳優やアイドル、店などについて聞かれることもあります。日本の「今」を学生はとても知りたがるので、こういった情報にアンテナを張っておくのも、日本語教師にとって必要なことだと思います。(池谷)

いつもと違う新学期だけど…

新学期が始まりましたが、今年は新型コロナウイルスの影響で、オンライン授業でのスタートになりました。一時帰国し日本へまだ戻れない学生もベトナムから授業に参加し、クラス全員出席しての初日、私もいつもとは違った緊張感で授業に臨みました。

授業が始まる5分前には、みんなログインし、オンライン上とはいえ、親しい友達との再会に、話が止まりません。2月末から続いていたオンライン授業のあと、学校に登校できないまま春休みになり新学期を迎えた学生達は、授業が始まるのを楽しみにしていたようです。帰国も外出も制限され、孤独だったのでしょう。

初日の授業では、最初に自己紹介や目標を話してもらいました。今、このような状況の中でも、学生達は日本に残り、日本での進学や就職を目指し、頑張っているのだと思うと、私はとても感慨深い気持ちになりました。そんな学生達に、私たち教師ができることは何でしょうか。

授業が終わり、学生達がオンラインを退出していくときに、「先生、また明日。」「ありがとうございました。」という普段の授業の後と変わらない言葉を聞いて、安心すると同時にどんな状況であっても、学生達の目標が達成できるようにサポートしようと決意を新たにしました。

オンライン授業は、教室型の授業とは違った工夫が必要で、まだまだ模索中の毎日ですが、どこからでも繋がるオンラインで教えるスキルは、日本語教師にとってこれから欠かせないものになっていくのではないかと思います。(平井)

学生の話す力を伸ばすために

学生に「日本語の技能のうち、どの技能を伸ばしたい?」と聞くと、「会話力」「話す力」と答える学生は多いです。また、「授業でどんなことがしたい?」と聞くと、「話す」と答える学生も多いです。しかし、実際に話す授業をすると、話す人はいつも決まっていて、話す授業をしてほしいと言っていた学生であっても、あまり話さないことはよくあります。

話す授業をする上で大切なことの一つは、テーマを何にするかです。学生たちが興味のあること、よく知っていることをテーマにしなければ、学生たちは重い口を開いてくれません。

次に頭を悩ませるのは、グループ分けです。あまり話さない(話せない)学生は、話す力があって、明るく、協調性のある学生と組ませるといいのですが、実際にはうまく組み合わせができず、仲のいい学生同士を組ませることもあります。

しかし、本当に一番大切なことは、学生が自ら「話そう」という意欲を持つことなのではないかと思います。その意欲を持ってもらうために「話せるようになると、どんないいことがあるか」、「話せないと、どんな困ったことがあるか」を具体的に学生に知らせることが必要です。 大学や専門学校の面接試験が迫ってきて、やっとお尻に火がつき、頑張り始める学生もいますが、そのときでは、もう遅いのです。そのことを如何に学生に分からせるかも日本語教師の役割の一つなのではないかと思います。(安部)

教材・教具の進化とともに

20年前、海外で日本語教師生活をスタートさせる時は、日本文化紹介のために神前挙式した友人のVHSのビデオテープを持って行きました。現地では時々停電が起きることもあり、プリントが印刷できなくて板書したり、聴解テープの代わりに自分でスクリプトを読んだりしたことも今では良い思い出です。

入社した当初は、教案は手書きで、プリントも切り貼りしながら作ったり、絵カードも自分で描いたりすることもありました。聴解テストもテープへの録音から、ICレコーダー、最近は教師自身のスマホなどへの録音になり便利になりましたが、アナログな私はその度に機器の使い方を覚えるのに戸惑いました。

スマホやタブレットが普及してからは、動画・画像を見せたり学生に調べさせたりすることが簡単になり、以前と比べると学生達に伝えることに苦労しなくなりました。最近までテキスト・プリント・板書ですることが多かった私の授業も、今回のコロナでICT化する必要に迫られました。オンライン授業のために四苦八苦しましたがZoomの使い方を覚え、PowerPointなどのプレゼンテーションソフトで教材を作り、授業をするようになりました。

日本語の授業で使う教具・教材が、時代や社会の動きと共に変わり、便利になってきたのと同時に、学習者側も勉強や調べ物が容易になりました。教師が、教室で授業をすることの意義や目的をよく考えながら、準備や授業に臨む必要があると日々感じています。(下土)

自宅からのオンライン授業

日本語教師になった当初は、オンライン授業というものは何か特別な環境、特別な人が行うものだと思っていました。そんな私が今では毎日のようにオンライン上で学生と接しています。

不安でいっぱいだったオンライン授業の初日、授業を始めたとたんに学生からチャットやメールで「先生、音、音」、「音がない」と教えてもらう始末。この失敗から、学生とメール、チャットなどのツールを使い、授業以外で学生とコミュニケーションをとるようになりました。対面での通常授業では、休み時間、授業後等に学生と話をしたり、相談に乗ったり、授業でわからなかったことなどの対応をしたりしていました。オンライン授業ではこれらをどうするかが不安要素の一つでしたが、通常授業では引き出せなかった事柄などに触れることができ、授業であまり発言しない学生についてもよく知ることができるようになりました。

現在、海外オンラインクラスを担当しているのですが、日本にまだ来たことのない学生が対象です。初級クラスなので、語や文型の導入をどうするかが一つの課題でした。ある日、在宅勤務となり自宅からのオンライン授業を行うことになりました。初級レベルの導入や練習では例文を提示したり、レアリア(実際の物)を見せたりしますが、自宅からの授業では、日本の実際の生活様式を見せることができます。部屋にあるものを使いながらの導入や練習ができ、学生たちも興味津々で授業に集中してくれています。

パワーポイントを作りこんで行う授業も良いですが、学校からのみならず自宅からも行えるこれからのオンライン授業の可能性に胸を弾ませています。(岡田)

復習は幸せ?

私は大学4年生のとき、インターンとして千駄ヶ谷日本語学校で授業の手伝いをしながら、日本語教師の仕事について学んでいました。ティーチングアシスタントとして実際に授業に参加する中で、「やっぱり日本語教師っておもしろい!」と思った出来事が数えきれないほどあります。

ある日の授業後、教室を出て行く初級レベルの学生たちに「また来週!みなさん、復習してくださいね」と声をかけていたのですが、一人の真面目な学生がスマートフォンを取り出し何かを調べ始めました。そして、満面の笑みで、「先生、復習は幸せですね。とてもいい言葉ですね」と言ったのです。

復習が幸せだなんて、なんて熱心な学生なのでしょう!いや、いくら熱心でも、そんな風に考えるだろうか……。疑問に思い学生のスマートフォンの画面を覗き込んでみると、そこには「福寿(ふくじゅ)」の二文字が!この学生は、「復習(ふくしゅう)」と「福寿(ふくじゅ)」を間違えて調べていたのです。 吹き出しそうになるのをこらえながら正しい意味を伝えると、学生は「えっ!」と驚いて恥ずかしそうに帰って行きました。

日本語には、「ふくしゅう」と「ふくじゅ」のように、発音は似ているけれど意味は全く異なる言葉がたくさんあります。日本語教師になった今、私の発音で学生を混乱させてしまうことがないよう、明瞭な発音をいつも心がけて授業をしています。 (久保)

オンラインのクラスメイト

今学期担当したのは、「学生が全員母国にいる」状態でのオンライン初級クラスでした。対面授業の初級クラスでも学生同士が打ち解けるのに少し時間がかかりますが、オンラインだとさらに時間がかかるだろうと思い、こちらから対面授業よりも多く質問を投げかけるように意識しました。例えば、「~たり~たりしました」という文型の練習をした時は、

  A:週末、何をしましたか。
  B:料理をしたり、バスケットボールをしたりしました。

という会話にプラスして、「どこでバスケットボールをしましたか?」「何を作りましたか?」など、言葉のキャッチボールが続くようにしました。

はじめは学生同士が自分の言葉で話せない場面もあり、小声でヒントの声掛けをして、何か月かたちました。そして先日、今学期最後の授業で、「友だち言葉でクラスメイトを遊びに誘う」という課を担当しました。習った言葉を使って学生同士が会話練習をする際に、「ごめん、土曜日はちょっと…」「じゃあ、日曜日はどう?」というように自主的に長く、楽しそうに話していて、とてもうれしくなりました。入門期のはじめに学ぶひらがなの書き方からオンライン授業で勉強しても、対面と変わらないくらいの日本語力が身に付いているのを目の当たりにし、ここまでの半年間が報われたような達成感を得ました。

来日して新しい日本語にたくさん出会って、彼らと日本語でおしゃべりができる日を楽しみにこれからも頑張ろう、と思いました。(榊原)

先生、たくさん笑ってください!

日本語教師になってまだ間もないころ、「どんな風に進めたら学生が楽しいと思えるか。」「どんな文を使うと楽しい授業になるか。」など授業の進め方を日々模索しながら、担当クラスに入っていました。

日本語教師になる前、教師という仕事は精神的な強さが要るものだ、という印象が強かったのですが、実際は身体的な強さも必要で、1日5コマ学生の反応を見ながら大きい声を出したり身振りで意味を伝えたりするのは大変でした。特に、初級クラスを担当すると、学生たちが知っている日本語が少ないため、言葉で説明するかわりに表情、声の調子、ジェスチャーなどを駆使する必要がありました。

学生にうけるような内容は何だろうと考えながら時間をかけてイラストや写真を駆使したプレゼンテーション教材を作成したにもかかわらず、授業で使ってみると、手ごたえのない時もありました。ある日の授業後のことです。一人の学生に、「先生、たくさん笑ってください!さようなら!」と言われ、はっとしました。学生を楽しくさせようと必死になっていた自分自身が楽しそうではなかったこと、そしてそれが学生に伝わっていたことに気が付きました。

内容にばかり気を取られて、自分のふるまいがおろそかになってしまっていたことを気づかせてくれた学生には、本当に感謝しています。今でもその学生の言葉を自分に言い聞かせてから、授業に臨んでいます。(橋本)

 
 

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