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日本語教師こぼれ話 2021年

オンラインとリアルの間で

オンラインでの授業がほぼ1年を通して行われ、画面を通しての授業が普通になりつつあります。そのような中で、学習者が対面のやり取りを欲しているのかなと感じることがありました。
 オンライン授業が始まる前は授業中にそれほど積極的に話すことがなかった学生がいました。オンライン授業がしばらく続き、登校授業が再開されたときのある日の授業後、その学生が帰らずに教室に残っていました。雑談をしながら「最近どう?」と話を振ると、突然「悩んでいます」と言ってきました。地方のある大学院に合格していたことはオンラインでの面談などで知っていたので、進学以外のことで悩んでいるのかと思いましたが、いろいろ聞いていくと「(関東圏の)別の大学院に進学したい」とのことでした。
私からアドバイスをし、その学生も頑張ってみますと言って帰って行きました。
 学生が帰った後、教室の片づけをしながら、オンラインでも話すことはできたのにどうして教室で彼は話をしたのだろうと思いました。オンライン上では言いにくくさせる何かがあったり、自分の決断を教師から直接後押ししてもらいたかったりしたのかもしれません。本当のことはわかりませんが、オンラインでのコミュニケーションと直接対面するときのそれとでは、私たちに何らかの違いが生じているのだろうと感じました。この2種類のコミュニケーションに早く慣れなければと思う一日でした。(阪上)

オンライン授業諸風景

「おはようございます」「授業が始まります」「出席を取ります」。パソコンのカメラに向かってあいさつをすると、画面には次々と学生の顔が現れます。しっかりカメラ目線で座っている学生、いつも左斜めの角度で映っている学生、お化粧が間に合わなかったのかマスクをしている学生、パソコンの画面を鏡代わりに髪を整えている学生、パジャマのままの学生、「先生、ちょっと待ってください」と画面がなかなかONにならない学生、学生たちの朝の様子も様々です。

授業が始まると、画面には時々いろいろなものが映ります。先日は、会話練習の際、Aさんのすぐ後ろを横切るカフェの店員。「Aさん、今、カフェにいますか?」「はい、先生」「じゃあ、小さい声で発音してくださいね」「あ、先生、大丈夫です!心配しないで」大きな声で答えてくれましたが、周囲のお客さんの迷惑になっていないか少し心配。

「じゃあ、Bさん、次を読んでください」「はい」音読を始めたBさんの声がやや緊張気味に。よく見ると画面後ろにお母さんの姿が。Bさんは一時帰国中で国の自宅から授業に参加しています。その後の授業でもたびたびお母さんの姿を拝見しましたが、次第にBさんも慣れて普段通りに勉強できるようになりました。

「Cさん、1番の答えは?」答え合わせをしていたときです。「はい、えーと1番…」Cさんの音声が途切れました。「Cさん」呼んでも答えが返ってきません。オンラインでは時々起こる現象です。突然学生の画面が動かなくなったり、音声が消えたりします。しばらくしてCさんが戻ってきました。あれ?電車の中?「Cさん、今、電車ですか」「あの、先生、新幹線です」。そうでした、受験のため京都へ向かっているのです。「先生、あと5分で着きます」。「いってらっしゃい」「がんばって」。私もクラスメートもみんなでCさんを見送ることができました。結果は、無事に合格です。 オンライン授業ならではの一風景でした。(木島)

猫に交番

語彙テストの採点をしていて、思わず手が止まりました。「ねこにこうばん」…?
慣用句「猫に小判」の読みの問いに対する学生の解答です。「猫に交番!」と想像しながら採点を続けると、隣で採点する同僚の先生の答案には「ねこにごはん(猫にご飯!)」も登場し始めました。

長音や濁点の有無は日本語学習者が発話する際にも読み書きする際にも苦労する点の一つです。学生にはテスト返却時にきちんと訂正を行いますが、採点時は教員室ではこのような解答に想像を膨らませてほほ笑む場面も多々あります。

そんな中、「いっきいっかい」…?
「一期一会」です。意味がわかっても、正しい読み方を知らなければ素敵な言葉も台無しです。

1クラス20名近くの学生の答案の採点は、時に大変な作業ですが、色々な想像が膨らむ時間でもあります。今日も赤ペンを握りながら、何と言ってテストを返そうか、どんな説明をしようか、と次の授業への構想を膨らませています。(廣比)

こんなとき、何と言いますか?

【問題】
今、友達と一緒にカフェにいます。
支払いをしようと思いましたが、財布が見当たりません。家を出たときは持っていました。
こんなとき、何と言いますか?

教室では毎日このような会話練習が行われています。
さて、学生は何と答えたでしょうか?

学生A:すみません。財布が無いので、お金を貸していただけないでしょうか。
学生B:はい、いいですよ。

文法も語彙も問題ありません。丁寧にお願いしていますよね。
学生Bも親切、丁寧に返答できています。完璧です!

ちょっと待ってください……この学生Aが自分だとしたら、本当にこんなことを言いますか?相手は友達なのに、丁寧すぎませんか?そして何よりも、財布がないのに、こんなに落ち着いて話せませんよね。学生Bも同じです。

あれ?え?財布が無い!……(バッグをごそごそ)、無い無い無い~~~!
どうしよう、どこだ?

とまあ、こんな場面が最初にありますよね。
教室で練習すると、この感情や反応がなかなか入れられません。日本語能力試験で最上級レベルのN1に合格した学生でも同じです。
そこで、このときの感覚を思い出してもらうために、一度母国語で場面や会話を想像させてみました。そして、もう一度日本語で会話に挑戦させると、少しおかしな表現はありますが、場面に合った感情たっぷりのリアルな会話ができるではありませんか。
教室だから間違えてはいけない、教科書と同じように話さなければならないという無意識の思い込みがあるのかもしれません。会話には気持ちが必要です。教室にリアルを持ち込む方法を模索中です。(渡邊)

教室の外で日本語を話そう

4月は、日本語学校も出会いの季節。新しいクラスを担当することになりました。
担当するのは、来日して日本語を学び始めて3ヶ月の学生たち。
自己紹介を兼ねて、日本語を使って何ができるようになったか尋ねました。

すると、ある学生がこんな答えを発表してくれました。
「日本のおじいさん、おばあさんと話せるようになりました。」
彼は、大学を卒業して間もない若い学生。一体、どこで出会ったんだろう?
詳しい状況を尋ねてみました。

教師「おじいさん、おばあさんとどこで話しますか。」
学生「近所の店です。」
教師「どんな話をしますか。」 学生「今日の野菜はいいですね、とか、話します。」
…ここで、私の頭に浮かんだのは、近所の八百屋で野菜を選ぶ学生とお年寄りの姿でした。
この学生は、ご近所さんと日常会話ができるようになった、と言いたかったのです!
たった3ヶ月で、既にご近所さんとコミュニケーションが取れるようになっていることがわかり、感心してしまいました。

留学生にとって、教室以外の場所で日本語を話すことは特別なことであり、貴重な実践の場となります。
私たち日本語教師は、日々教室でも様々な場面を提示して会話練習をさせていますが、学生が日本語力を伸ばす上で、実践に勝るものはありません。
このこぼれ話を読んでくださっている方、身近に日本語を勉強している外国人がいたら、是非積極的に日本語でおしゃべりしていただければと思います。(津島)

大丈夫?問題ない?

以前、中国の学生を担当していた時、答え合わせで間違えた学生に理解度を確認したり、体調を尋ねたりするときに「大丈夫?」と声をかけるのですが、その中には首を横に振りながら「大丈夫。」と答える学生がいました。どう考えても質問の「大丈夫?」に対する同意である「大丈夫。」なのに、なぜジェスチャーが否定なのか、なぜ首を横に振るのかと疑問に思っていました。

ある日、中国の学生向けのビジネス日本語の授業で、ケーススタディを取り上げていた時です。あるケースについての評価を学生に尋ねたところ、首を横に振りながら「問題ない、大丈夫、大丈夫」と答えました。授業が終わってから、その答え方がどこかで見た光景だなぁと気になっていると、あの疑問を思い出したのです。そこで、この「問題ない、大丈夫」のことを中国語が母語のスタッフにも聞いてみたところ、「問題ない」は中国語で「没问题」(メイウェンティ)と言うようで、「没」は否定の言葉で、首を横に振るのが自然なのだそうです。また「大丈夫」と言うときに、「問題ない」とセットで言うこともあるということでした。

以前、学生が首を横に振って「大丈夫」と答えたのは、心の中では「問題ない、大丈夫」と言いたかったのかもしれないなと、あの時の疑問が少し解けた気がしました。日本語学校の教室は異文化に触れられる場であることを改めて認識しました。(高田)

マイ箸はちょっと…

上級クラスで環境問題をテーマにしたスピーチの活動がありました。ある学生が割り箸の消費による環境への影響について発表をした時、スピーチを聞いた学生が私に質問を投げかけました。

「先生、どうして日本のカップ麺にはフォークがついていないんですか。」

確かに!それそれ!と同調した学生たちが途端にザワザワし始めました。
そこで、「みなさんの国ではカップ麺にフォークがついているんですか。」と尋ねると、 「中です!」「プラスチックの小さなフォークが入っています!」と声が挙がります。
つまり、カップ麺には予めフォークがついているから割り箸を使わなくていい、という話だと理解しました。
私は「そのフォークはプラスチックですよね。プラスチックのごみを増やしてしまうことが懸念されますが、その点についてはどう思いますか。」と学生達に意見を求め、クラスで議論する中で「じゃあ、みんなが”マイ箸”を持つのはどうでしょうか。割り箸も消費せず、プラスチックのごみを増やすこともありませんよね。」と提案をしてみました。

ここで私にとって予想していなかった反応が返ってきました。

「えぇ~!ないです!(笑)」「先生、それはちょっと貧乏な感じがして…。」
「マイ箸はちょっと…。」

学生の中にはマイボトルを持っている人もいるのですが、マイ箸には抵抗があるようで意外でした。話を聞いていくと、日本のようなお弁当の習慣がないことで捉え方に違いがあるのかもしれないと思いました。
日本語教師をしていると、学生の反応から文化や習慣、価値観の違いについて気づきを得ることができます。今回の授業も自分自身の価値観を振り返る貴重な時間となりました。(井田)

海外の日本語教師

ベトナムの現地企業で日本語を教えていた時の話です。
企業や大学では、日本語の授業が始業前や終業後に行われることがよくありました。慣れない新人の頃、 「朝7時から大学での日本語授業を見学するように」と指示されたときは、そんなに早くから学生も来るんだ!と驚いたものです。

ベトナムには日系企業が多く進出していることもあり、日本語を学ぶことは、彼らの就職に直接関係があるため、日本語への関心が比較的高いように感じました。

私が担当した企業の場合、日本語の授業開講時大勢いた学習者は次第に少なくなっていくのが常で、20人のクラス3つが1年後には全体で5人になっていたという年もありました。 しかし、残っている人達の学習意欲や能力は高く、その成長にしばしば驚かされ、教師として触発されました。

海外にいると、知恵を絞って様々な方法で日本語を教えようとする人たちと出会う機会があります。養成講座で学んだことは確かに当時の自分にとっては大切な基礎でしたが、 その枠を自力で超える挑戦をしている人たちとの縁が、日本語教師としての私の背中を今も押してくれています。

現地文化の中で暮らし、仕事をすることは大変なこともありますが、振り返ってみると日本国内にいるときよりも文字通り一日一日、一生懸命に取り組んでいたように思います。 海外での教師経験も、良いものです。(山地)

学生の成長に寄り添えて

上級クラスでは、授業の一環としてターム末にシンポジウムに取り組みます。クラスが数グループに分かれてそれぞれのテーマについて調べ、 そこからの考察をグループの意見として発表します。更に、その発表内容についてクラス全体で質疑・意見交換するという、総合力が求められる活動です。

担当したあるクラスでのことです。当初、クラス全体がやや冷めた雰囲気でまとまりに欠けていたので、まずグループワークがうまくいくのだろうかと、私は不安でした。 授業も後半に差し掛かり、総合司会者を決める時には、誰もやりたがらず、最終的にじゃんけんで負けたA君が担当することになりました。A君はとても真面目ですが、消極的で口頭での表現が苦手な学生でした。

しかし、そこからのA君の頑張りは見事でした。授業中も授業後も積極的に疑問点を質問してくるようになり、休み時間も総合司会として想定した原稿を何度も繰り返し練習していました。クラスの学生もA君の積極的な姿勢に触発され、 まとまりが生まれ、いざ発表当日。A君は緊張からぎごちなさはあったものの、司会をしっかり務めシンポジウムも大成功でした。

その後のクラスの反省会でのこと。「A君に拍手をおくりたいです。ありがとう。」と学生達から自発的に拍手が起こりました。 「自分は話すことは得意ではなかったが、楽しかった。みんなに助けられて司会ができた。これからは不得意なものでもチャレンジしていきたい。」とA君。

照れながらも自信に溢れた顔のA君と、シンポジウムを通じてまとまりの出てきたクラス。私も学生の成長に寄り添えたのだと思うと、嬉しさもひとしおでした。(水谷)

授業はコミュニケーション

私は毎朝、職場に向かうとき、とても楽しみな気持ちになります。 それは、教室で繰り広げられる学生たちとのコミュニケーションが大好きだからです。

言語がコミュニケーションのための道具であることを考えると、日本語の授業もまた、コミュニケーションを身につけるためにコミュニケーション主体で行いたいと私は思っています。 教師が一方的にしゃべってばかりで学生の話す機会を奪うというのは、避けたいものです。

たとえば、新しい文型や表現を教える場合、「この文型の意味は◯◯です」と教師が説明するだけでは、学生の頭には何も残りません。そもそも、そのような学習は、自宅で参考書を使い、一人でできるものです。 私の授業では、自分が説明するのではなく、その文型を含む例文を複数用意して学生に示し、その意味や用法を分析させます。その際、学生同士(ペアやグループ)で話し合いながら課題を解決していく協働学習の形をとり、お互いを学びのリソースとすることで学習の質を高めます。そして、更にクラス全体で話し合いながら協力し、みんなで理解を深めます。

このように、授業には様々なところにコミュニケーションのチャンスがあります。 「次は学生とどんなコミュニケーションをとろうか」、「学生同士でどんなコミュニケーションをとらせようか」…、そんなことを考えながら、今日も私は楽しく授業の準備を行っています。(江上)

授業中に感じる達成感

授業準備。日本語教師になりたての頃は、教科書・文法書・ネット検索・養成講座を受講していた時のノート等を使って、頭をフル回転させて授業準備をしていました。
納得のいく授業準備をしたつもりでも、いざ授業をすると「あれ?反応が悪いな……」など、学生の予想外のリアクションに戸惑うこともあれば、提示した学習項目の意味を理解した時に表情が輝いたり、 私の説明に納得して盛んにうなずいたりするのを見て、「今日の授業は成功した!」「準備して良かった!」「よしっ!きた!!」と思う瞬間もあります。授業の成否は、常に学生の反応の中に答えがあります。

その瞬間を得るために、最近は次の方法を意識して授業に取り入れています。
①レアリア:生教材(実物のりんご・新聞等)。
②絵カード:イラストや写真。
③PPT(パワーポイント)+プロジェクター:PPTをホワイトボードに映写。効率的な授業が可能。
※字を書いて見せた方が良い場合もあり。
④教師の表現力・やる気…私は役者と思いこみましょう。

上記①~④を効果的に駆使すると……。※あくまでも筆者の場合です。 「あ~。なるほど。」「はいはい。そういう意味ね!」「あ~!こう言うのか!」という反応を見せてくれます。理解や納得がしっかりできると、その後の発話練習の声量も格段にアップします。 そんなときは、教師として達成感を感じます。

クラスによって学生の年齢や関心の向き、学習目的、国籍等が異なるので、同じ学習項目でも担当するクラスに合わせて内容をアレンジしますが、このような達成感を得たいがために、日々試行錯誤しているのかもしれません。
この達成感を味わってみませんか。一度味わったらやみつきになりますよ!(金谷)

「瞳孔が開く瞬間」inオンライン授業

つい先日、オンライン授業でこんな瞬間がありました。中級の読解授業でのことです。「お茶」の呼び名(CHA、TEAなど)によって、 かつて中国からお茶が伝わったルートや時期が推測できるといった内容の文章でした。 遣唐使による日中の文化交流や、いわゆる大航海時代のヨーロッパなどに思いを馳せ、 「呼び名に歴史あり」の面白さを感じさせつつ文章に誘(いざな)えればと考え、羊羹、金平糖、天麩羅の由来をクイズ仕立てで紹介していた時、学生から弾んだ声が飛びました。

「先生!この犬、服を着ています!」
「わあ!こんな昔から愛犬家が考えることは同じだったんだ!」

ポルトガル人の様子を描いた絵巻物をよくよく見ると、小さな犬が、歴史の教科書でお馴染みの大きな白襟ファッションを纏っているではありませんか。 準備した私も気づかなかった、学生の「大発見」でした。ささやかな興奮、しかも本筋から外れた事柄ではありましたが、こんな瞬間が、場の雰囲気を温め、一体感を生み、 共に文を読み進めていくワクワク感をもたらしてくれることを、私は長い日本語教師生活の中で何千回、何万回と感じてきました。

ある科学者が「目がキラリと輝くのは漫画の世界だけじゃない。人間は何かに興味を持つと実際に瞳孔が開くんだ。」と言っていました。 「やっぱり」と思いました。学生の目を覗き込むわけではありませんが、教室に立っているとそれを肌で感じることがしばしばあります。 オンライン授業では画面越しで表情が読みづらい上に、顔出しNGの学生もいます。 でも、だからこそ、彼らの瞳孔が開く瞬間を、その反応や声の調子などからキャッチし、学生と一緒に授業を作り上げていく醍醐味は、もしかしたら対面授業以上かもしれないと感じています。 アナログ人間の私にとって受難でしかなかったオンライン授業が、こんなやり取りを繰り返すうち、新たなやりがいへと変わりつつあり、ここでの工夫が、 ひいては対面授業での自分にも新風を吹き込んでくれるのではないかとさえ思える今日この頃です。この仕事、まだ暫くはやめられそうにありません。(竹田)

 
 

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