トップページ > コラム・ミニ知識 > 日本語の美しさ > 第101回 日・中・韓の名字比べ1

 

日本語の美しさ3

第101回 日・中・韓の名字比べ1

今回は日本の名字の特徴を、お隣の国、中国・韓国の名字と比較しながら探ってみたいと思います。

まず、日・中・韓の名字の共通点は何でしょうか。真っ先に思いつくのが、3つの国とも名字に漢字が使われているということですね。けれども、名字の文字数には大きな違いがあります。韓国や中国ではご存知の通りほとんどの名字が漢字1文字なのに対し、日本では1文字のものから、非常に珍しいもので は5文字のものまであります。その中で一番多いのは2文字のもので、名字の種類中で約9割、人数では約8割を占めているとのことです。

何年か前にアジアでブレイクした日本の俳優、金城武(かねしろ・たけし)の名前を、中国で「金・城武」と勘違いして区切っている人が多いという話を聞いたことがあります。双方の国の名字の特徴から考えると、なるほどありそうな話ですね。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第102回 日・中・韓の名字比べ2

そもそも日本には一体どのぐらいの種類の名字があるのでしょうか。ものの本によると、約5万から30万の名字があるそうです。5万と30万ではずいぶん大きな違いですね。なぜこのような違いが出てくるのでしょうか。

一番大きな理由は、名字の数え方の違いにあります。一番少ない約5万という数は、漢字は関係なく、読み方のみで分類した時のものです。この場 合、「伊藤」・「伊東」・「井藤」は全て「いとう」という一種類の名字として数えられます。また、漢字で区別する場合、「斉藤」と「斎藤」のように字体が 違うものを別の名字として区別するかどうかで数が変わってきます。一番多い約30万という数は、読み方の区別に加え、字体の違いも区別した場合の種類数だ そうです。いずれにしても驚くほどの多さですね。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第103回 日・中・韓の名字比べ3

一方、中国や韓国にはどのぐらいの種類の名字があるのでしょうか。最近の調査では、中国には4100種類(従来は約500種類と言われていました)、韓国には約250種類あるということです。日本の最大約30万種類に比べるととても少なく感じますね。

また、名字を多い順に並べたとき、日本では上位100位の名字で人口の約22%を占めるそうですが、中国では上位3位の「李・王・張」、そして 韓国では第1位の「金」だけで人口の20%以上に達してしまうそうです。中国や韓国では名字だけ呼んでも誰のことを呼んでいるのか分からず混乱してしまい そうですね。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第104回 日・中・韓の名字比べ4

中国や韓国では他の人のことを呼ぶとき名字だけで呼ぶことは一般的ではないそうです。ですから、日本に来た中国や韓国の人は、なぜ日本人が普段名字だけで呼び合っているのか不思議に感じるかもしれません。

外国の人からそのような習慣に関する質問をされたとき、単に習慣と言ってしまうことも簡単ですが、背景にあるそれぞれの国の事情の違いなども説明できると、日本の文化に興味をもってもらえるきっかけを提供できるかもしれませんね。(み)

<参考文献>
・『名字と日本人 先祖からのメッセージ』武光誠
・『日本全国苗字と名前おもしろBook』第一生命広報部/編
・『名字の謎 その成り立ちから日本がわかる!』森岡浩
・『ここまで知っときゃ韓国通:スペースアルク』http://www.alc.co.jp/korea/culture/quiz/index.html
・『人民網日文版』http://www.people.ne.jp/2006/01/10/jp20060110_56624.html

バックナンバーの目次へ戻る

第105回 新語・その3(略語)1

皆さんは「地デジ」という言葉をご存知ですか。ご自分でも使われますか。

「地デジ」は最近注目されている「地上デジタル放送」の略です。この「地デジ」のように、本来は長い言葉だったものを省略することで新しい言葉が生まれることがあります。そのようにしてできた言葉を略語と言います。

身の回りにある略語をちょっと挙げてみましょう。

パソコン・テレビ・自販機・うなどん・CD・シャーペン・コンビニ・空き巣・アル中・東大・東横線(路線)・経産省・ビー玉・NHK・サラ金・電卓・バイト・・・

かなりたくさんありますね。ここに挙げたものは比較的耳慣れたものだと思いますが、例えば「気持ち悪い」を「キモイ」と言ったり、「告白する」を「コク る」と言ったりするような略語には違和感を覚える方もいらっしゃることでしょう。 どのような言葉が略されていくのでしょうか。私たちはどのようにして略語を作っているのでしょうか。ルールを探ってみましょう!(中)

バックナンバーの目次へ戻る

第106回 新語・その3(略語)2

どのような言葉が省略されているのでしょうか。前回挙げた言葉を使って、いくつか例を見てみましょう。( )内の数字は、拍の数を表しています。

パソコン(4)→パーソナル・コンピューター(11)

自販機(4)→自動販売機(8)

空き巣(3)→空き巣狙い(6)

アル中(4)→アルコール中毒(9)

バイト(3)→アルバイト(5)

日本語は2~4拍の言葉が多いそうです。それ以上の拍を持つ言葉は「長い」と感じてしまいますので、5拍以上の言葉になると省略される傾向があります。5拍で省略された例には、今回の言葉ですと「アルバイト」があります。そして、短くされた言葉を見ていくと、「自販機」「空き巣」「アル中」「バイト」い ずれも2~4拍となっていることがわかります。日本語に多い拍数、つまり、日本人に馴染みのある拍数にされているということですね。(中)

バックナンバーの目次へ戻る

第107回 新語・その3(略語)3

1回目に挙げた略語を分類してみます。何を基準にした分類かおわかりですか。

グループA(バイト)

グループB(うなどん・自販機・経産省・東大・東横線・電卓・パソコン・シャーペン・アル中・ビー玉・サラ金)

グループC(テレビ・コンビニ)

グループD(CD・NHK)

これは、どの部分が省略されてできた略語なのかを基準にしたグループ分けです。グループAは「アルバイト」の前部分「アル」が省略されています。グループBは「うなぎどんぶり」の「ぎ」「ぶり」、「自動販売機」の「動」「売」、「経済産業省」の「済」「業」というように、言葉の途中が省略され ている部分を含んでいます。グループCは「テレビジョン」の「ジョン」、「コンビニエンスストア」の「エンスストア」というように言葉の後ろ部分が省略さ れています。グループDはそれぞれ「compact disk」、「日本放送協会」の頭文字をとった略語です。このようにしてみると、同じ略語でも、様々なルールで作られていることがわかります。ちなみに英 語では、グループDのような略し方か、「international」を「intl.」とするような、文字は省略して表記するけれど、読み方は変わらない というような略し方のみだそうです。日本語はかなり自由な、そして便利な言葉ですね。(中)

バックナンバーの目次へ戻る

第108回 新語・その3(略語)4

これまで、名詞の略語を見てきましたが、日本語で省略されるのは名詞だけではありません。「告白する」という動詞を「コクる」、「気持ち悪い」という形 容詞を「キモイ」のように略して言う若者もいます。「棚からぼた餅」を「たなぼた」、「泥棒を捕らえて縄をなう」を「泥縄」と言うように、表現を省略する こともあります。その他にも、人名(例:木村拓哉→キムタク)、ドラマや映画の作品名(例:「世界の中心で愛を叫ぶ」→「セカチュー」)、地名(例:秋葉 原→アキバ)等、様々なものが省略された形で使われています。以前にもお話ししたように、5拍以上の長い言葉を省略しているのですが、5拍以上であれば、 私たちは全てを省略して使っているのでしょうか。

例えば「木村拓哉」という人名は省略されて「キムタク」と呼ばれていますが、「野口英世」が「ノグヒデ」とはなっていません。省略されるものには、どのような傾向があるのでしょうか。(中)

バックナンバーの目次へ戻る

第109回 新語・その3(略語)5

省略は以下のような言葉の場合に起こる傾向があります。

・5拍以上のもの。

・よく使われるもの。

1拍や2拍程度のものでしたら、省略のしようがありませんし、長くても普段あまり使わないものであれば省略す る必要がないわけです。前回、「木村拓哉」は「キムタク」となっても、「野口英世」は「ノグヒデ」とはならないという例を挙げましたが、例えば偉人の伝記 を出版している出版社の人であれば、よく口にする名前かもしれません。その場合には「ノグヒデ」もあり得るわけです。逆に、「秋葉原」とは普段あまり関係 ない生活をしている人は「アキバ」とは言わないかもしれません。つまり、「よく使われるもの」という条件は、一般的に知られているかではなく、その人(あ るいは集団)にとって使用頻度が高いかどうかということになります。

1回目に例に挙げた「地デジ」という言葉も、初めて聞いた時には違和感が ありました。しかし、今ではテレビ等でよく耳にするようになり、違和感は薄れつつあります。略語ができるということは、その言葉が親しまれている証拠なの でしょう。親しい人を愛称で呼ぶように、略語も愛称だと考えれば、その対象となっているものへの愛情が増す感じがしませんか。(中)

参考文献
『日本語教育指導参考書13 語彙の研究と教育(下)』国立国語研究所 昭和60年8月12日初版発行
「言葉の省略は4モーラで」
>http://www.max.hi-ho.ne.jp/rkato/Document/kotoba/k14kotoba_no_syouryaku_wa_4morade.htm
『日本語教育講座④ 音声・語彙・意味』(株)千駄ヶ谷日本語教育研究所 2003年4月1日第3版発行

バックナンバーの目次へ戻る

第110回 力を合わせる時の掛け声1

今、あなたは引越し作業の真っ最中です。家族や友人と力を合わせて段ボール箱を運んだり、棚を動かしたりしています。あなたはどんな掛け声を掛けます か?「いちにのさん」?「せーのっ」?「いっせーのーせっ」?私は相手が使う言い方に合わせてどれも使っていますが、68歳の母は、「最近、テレビのアナウンサーが『いっせーのーせっ』なんて言うのよ」と嘆いています。母は、「いちにのさん」しか使わないと言います。職場で聞いてみたところ、先ほど挙げた 3つを使う人が多かったのですが、二人で物を持ち上げるような場合は「せーのっ」と、短い言い方でもタイミングが計れますが、10人ぐらいになると、 「いっせーのーせっ」ぐらい時間を掛けないと、皆のタイミングがなかなか合わないということがあります。「せーのっ」「いっせーのーせっ」のどちらも使う と言う人は、このような状況の違いで使い分けることがあるようです。(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第111回 力を合わせる時の掛け声2

職場で聞いてみた際の、少数意見をご紹介します。まず、「いっせーのーでっ」を使うと答えたのは鳥取(米子)出身者です。ネットで調べてみると、北海 道、長野、静岡(浜松)などでも使われている例が見つかりました。この言い方をする人たちからすると、「いっせーのーせっ」では最後に力が入らない感じがするそうです。確かに、「で」の音には破裂音の[d]が使われているので、「せ」の摩擦音[s]に比べると、力強い音が出ます。また、この「で」は、 「『いっせーのー』と言ったら」と同じなのではないかという意見がありました。「いっせーのーで、持ち上げるよ」の後半を省略して「いっせーのーでっ」な のではないかと。残念ながら「いっせーのーせっ」の場合、このような理に適った説明が思いつきません。(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第112回 力を合わせる時の掛け声3

もうひとつ少数意見を。「さんのーがーはい」と言ったのは福岡出身者です。「いっせーのーせっ」とあまりにも違うので、びっくりしました。この「さん」 は「3」のことだそうです。そう言えば、皆で歌を歌い始めるときにも「さんはいっ」と言いますね。今治出身の友達が「いっせーのーさんはいっ」と言っていたというスタッフもいました。ずいぶん長い掛け声ですね。「いっ/せー/のー/さん/はいっ」で、5音節。のんびりした土地なんでしょうか。「いっ/せー /のー/せっ」「いっ/せー/のー/でっ」「さん/のー/がー/はい」は、いずれも4音節です。「いち/にー/のー/さん」は4音節ですが、「いち/にの /さん」だと3音節です。「せー/のっ」は2音節。掛け声にもいろいろな長さがありますね。(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第113回 力を合わせる時の掛け声4

力を込めるのはどのタイミングですか?

A「いっせーのーせっ」 B「いっせーのーせっ  

私はAです。Bのタイミングはちょっと考えられません。でも、「いっせーのーでっ」を使う人たちは、Bが多いようです。

A「いちにのさん」 B「いちにのさん  

これも私はAですが、Bもあまり違和感はありません。

A「せーのっ」 B「せーのっ  

私はBです。Aを使う人もいるようですが、発話時間が短すぎてのんびり屋の私にはタイミングを合わせるのがむずかしそうです。このように、掛け声もタイミングもいろいろなのに、ほかの人と息を合わせて行動できるなんて、素晴らしいですね。あるインドネシア人が私にこう言いました。「インドネシアでも、以前住んでいたアメリカでも、力を合わせるときは『1・2・3』という言い方しかないけれど、日本人はみんなでいっしょに行動する気持ちが強いから、いろい ろな言い方があってもちゃんとタイミングが合うんですよ」(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第114回 お酒にまつわる言葉1

歓迎会に送別会、忘年会に新年会、お花見、結婚式といった集まりから個人的な機会に至るまでお酒を飲む場は枚挙に暇がありません。今回は、お酒にまつわる言葉について考えてみましょう。

そもそも「酒」という言葉はどのようにして生まれたのでしょうか。

日本最古の歴史書といわれる『古事記』『日本書紀』の中には、酒を表す言葉として「ミキ」「クシ」「サケ」といった呼称が出てきます。

最も多く使われているのは「ミキ」で、接頭語の「ミ」に食物一般を表した「ケ」が転化した「キ」がついたもので、これは、今でも神道で神前に供えるお酒を「御神酒(おみき)」と呼ぶことにつながっています。(に)

バックナンバーの目次へ戻る

第115回 お酒にまつわる言葉2

『古事記』『日本書紀』の中には、酒を表す言葉として「ミキ」の他に「クシ」「サケ」といった呼称が出てきます。

「クシ」は、形容詞の古語「奇し」に由来します。現代語でも「奇しくも一命を取り留めた」といった場合に使われますが、「不思議だ・霊妙だ」という意味 の形容詞で、お酒を飲むとなぜか嫌なことも忘れていい気分に浸れる、これは不思議だということから、お酒を「クシ」と呼ぶようになったのではないかと考えられています。

そして、「サケ」ですが、もともと「栄水(さかえみず)」と言っていたものが、「さかえ」から「さけえ」、そして「さけ」に変化したという説があります。この他、お酒は風寒邪気を避けるものと信じられていたことから、「避ける」が「サケ」になったという説もあります。

いずれにしても、いい意味での酒の効用・効果が語源に関係しているということがわかります。(に)

バックナンバーの目次へ戻る

第116回 お酒にまつわる言葉3

「とり」「みずどり」「ひだり」・・・。これらの言葉は何を表すものでしょうか。答えは「お酒」です。いずれも酒類一般を指す洒落言葉です。「とり」と いう漢字は「酉」ですが、「酒」という漢字にも部首として使われています。元々「酉」は酒壷を表した象形文字で、この「酉」が使われている漢字は何らかの意味でお酒につながります。例えば、「酌をする」の「酌」、「酔う」の「酔」、「醸造する」の「醸」、「発酵させる」の「酵」等いずれもお酒に関るもので す。医学の「医」も旧字体「醫」には「酉」が使われていますが、古くはお酒が薬として使われていたことによるものと考えられています。こうしたことから、 「酉(とり)」はお酒を表す言葉として使われます。「みずどり(水酉)」も同じ由来で、お酒を表す言葉として知られています。

では「ひだり」はどうでしょうか。大工さんは「右手に金槌、左手にノミ」を持って仕事をします。もうおわかりでしょう。「ノミ」と「飲み」をかけた洒落 言葉です。盃を左手で持つことも関係しているという説もあります。酒好きを表す「左党」という言葉も「ひだり」から派生してできました。ちなみに「右党」はお酒が飲めず、甘い物が好きな人を表す言葉です。(に)

バックナンバーの目次へ戻る

第117回 お酒にまつわる言葉4

「その場に、ある事態を出現させる」という意味を持つ「醸す(かもす)」という言葉があります。「物議を醸す」というように使われますが、この「醸す」 にも「酒」という漢字の部首「酉」が使われています。元々お酒を醸造することを表す言葉ですが、この「醸す」は「噛みす(かみす)」から転じた言葉だという説があります。『日本書紀』の中には、アマテラスオオミカミの孫であるニニギノミコトの后(きさき)コノハナノサクヤヒメがヒコホホデミノミコト(山幸 彦)を産んだ時、そのお祝いに天のたむけ酒を噛まれたという逸話が残されています。「酒を噛む(かむ)」とは、炊いた米を口で噛んで、壷の中に吐き貯めて 唾液の糖化作用を利用して酒を作る手法を表しており、こうして出来た「口噛み酒」は、メキシコやアマゾン、台湾など環太平洋の各地に存在したとされていま すが、この「噛みす」から「醸す」が生まれたというわけです。ちなみに、妻を表す「かみさん」という言葉は、家で酒を醸す役割を女性が担っていたことから 生まれた言葉だとされています。(に)

バックナンバーの目次へ戻る

第118回 お酒にまつわる言葉5

「今夜は堅苦しいことは言わないで無礼講でやろう!」といった上司や先輩の発声で飲み会が始まることがありますが、「無礼講」の由来とは何でしょうか。

元々、「講」というのは、中世中頃以降、民衆の間で作られた仏事や神事を行うための結社のことです。

日本史で「建武の新政」の中心人物として登場する後醍醐天皇は、鎌倉幕府打倒の策略を練るために相談する際、内容が外に漏れることのないよう、身分関係を抜きにしてハメを外した酒宴を催しました。その様を見て驚いた人々が「無礼講」と呼んだのが始まりとされています。

ちなみに、酒席で酒を勧められた人が「すみません、下戸なんで・・・」と言って断る場合がありますが、酒が飲める人を「上戸」、飲めない人を「下戸」と呼ぶのも史実に基づいています。

701年に発布された大宝律令では、成年男子が6人から8人いる家を上戸、4人または5人いる家を中戸、3人までの家を下戸と呼びました。それが転じ て、働き手が多くいる家は経済的に豊かであるということから、祝宴の折に酒を多く振舞える家を「上戸」と呼ぶようになり、酒を多く飲む「上戸」、あまり飲めない「下戸」になったことに由来すると言われています。(に)

<参考文献>
・『お酒に関する言葉の豆辞典』  http://www2s.biglobe.ne.jp/~aoshima/jiten.htm#kuda
・月桂冠㈱『お酒の博物誌』 http://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/encyclopedia/index.html
・ 大雪渓酒造㈱『日本酒あれこれ』   http://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/encyclopedia/index.html
・『古事記 全訳注』(上)・(中)・(下)、次田真幸著、講談社学術文庫
・『全現代語訳 日本書紀』上巻、宇治谷孟著、講談社学術文庫

バックナンバーの目次へ戻る

第119回 ホットケーキVSパンケーキ1

「ホットケーキ」といえば、子供の頃、よく母がおやつに作ってくれたものですが、最近は、おしゃれなカフェなどで、「ホットケーキ」ではなく「パンケー キ」なる名前のメニューを目にするようになりました。みなさん、「ホットケーキ」と「パンケーキ」の違いは何かご存知ですか。調べてみると、材料、生地の厚さ、食べ方の違いなど諸説あるようですが、一つ確かなのは、「ホットケーキ」という名前の食べ物は日本にしか存在しないということです。つまり、海外の レストランなどで「ホットケーキ」を食べたいと思ったら、「パンケーキ」と注文しなければ通じないのです。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第120回 ホットケーキVSパンケーキ2

恥ずかしながら、私はこの「パンケーキ」の「パン」はてっきり食べる「パン」のことだと思ってい ましたが、実は「フライパン」の「パン」なんだそうです。オーブンではなくフライパンで焼くことから名付けられたのでしょう。日本でパンケーキ(ホット ケーキ)の素を最初に売り出そうとした会社の社長さんが、名前が「パンケーキ」のままだと、私のように食パンの「パン」と誤解する人がいるだろうと考え、 「ホットケーキ」と名付けたとのことです。このように、私達の周りには、英語などの外国語だと思っているけれども、実は日本でしか通じない、英語風の日本 語である「和製英語」(和製外来語)がたくさんあります。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第121回 ホットケーキVSパンケーキ3

私は甘いものが大好きなので、「ホットケーキ」の他にも甘いものに関する和製英語(和製外来語)がないか調べてみました。まずは「シュークリーム」。こ れはフランス語の「chou a la creme」から生まれた言葉で、英語では「cream puff」と言います。ちなみに「chou」とは「shoe(くつ)」ではなく、フランス語でキャベツを指し、形が似ていることから名付けられたそうで す。そして「デコレーションケーキ」。英語では「fancy cake」と言うそうです。「デコレーションケーキ」からは少々派手な感じを受けますが、「ファンシーケーキ」と聞くと、何だか可愛らしい一口サイズの ケーキをイメージしてしまいますね。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第122回 ホットケーキVSパンケーキ4

では、皆さん、ここで問題です。「ショートケーキ」とは、どんなケーキのことですか。私たち日本人は丸いホールではない三角の形に切り分けられたケーキ、特に苺がのったケーキを思い浮かべませんか。

ところがアメリカでは、スポンジの代わりに「shortbread」と呼ばれるさくさくとしたクッキー(ビスケット)を使ったケーキを指します。 この場合の「ショート」は「短い」ではなく、「もろい」や「さくさくする」という意味なんだそうです。

そうそう、ケーキといえば、私は子供の頃、栗がのったケーキを「モンブラン」と呼ぶのを聞いて、栗は英語でモンブランというのだと思っていました。皆さんはもちろんご存知だと思いますが、このケーキの名前の由来はアルプス山脈の最高峰であるモン ブラン(Mont Blanc 白い山)で、栗のクリームの上に、泡立てた白いクリームを飾ったその様子を「白い山」になぞらえたとのことです。

さて、私はというと、その後、栗を砂糖漬けにした「マロングラッセ」で「栗=マロン」という更なる誤解(マロンは栗のフbrランス語)を経て、やっと「栗=chestnut」という正しい英語にたどり着いたのですが・・・。

ともかく、海外でケーキを注文する時には、少し注意したほうがよさそうです。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第123回 ホットケーキVSパンケーキ5

さて、私たちの周りには、和製英語というよりも、本来の英語の意味を誤って捉えているものも多いです。

私は「フリーマーケット」をずっと「Free market」、ただ同然の値段のものが売られている市場だと思っていましたが、正しくは「flea market」、のみの市だと知ったときはびっくりしました。

友人はファーストフードのことを、「fast food」ではなく「first food」と誤解していました。「first」が付くファーストフードの店が存在することも誤解の一因かもしれませんね。

さて、皆さんの中には、スイートルームのことを「sweet room」だと思っている方もいるのではないでしょうか。そういう私も、新婚さんがハネムーンで使うから「甘い部屋」、何てロマンティックなネーミングだ ろうと思っていたのですが、これも間違いで、実は「suite room」、つまり、一揃いの部屋という意味なのです。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第124回 ホットケーキVSパンケーキ6

日本語は他の言語に比べて、語彙が多いと言われています。会話の85%を理解するには7000語必要だそうで、英語やフランス語、スペイン語が2000 語程度なのに比べると、その3倍以上です。(参考文献:『あなたの日本語大丈夫?』沢昭子、白石章代著 産経新聞ニュースサービス)この語彙の多さには、 今回の和製英語のように、新しい言葉をどんどん作りだすという日本語の傾向も大きく関わっているのでしょう。さて、これからまたどんな和製英語が作られて いくのか、楽しみです。ただし、言葉の由来や原語での意味も理解した上で、使いたいものですね。(イ)

バックナンバーの目次へ戻る

第125回 畳語1「人生いろいろ」

語や語の一部を重ねてできた語を畳語(じょうご)といいます。同じ語を畳みかけてできた語ということでしょう。ここでは畳語の成り立ちと種類を見ていき ましょう。「人びと」「日々」のように、名詞を重ねて複数を表す名詞になるものや、「人生(は)いろいろ(です)」の「いろいろ」のように名詞「色」を重 ねて形容動詞として、また「いろいろお世話になりました」のように副詞として用いられるものもあります。名詞からできている畳語には、「もともと(元)」 「いちいち(一)」「ときどき(時)」「たびたび(度)」「あとあと(後)」「ところどころ(所)」などもありますね。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第126回 畳語2「初デートにうきうきする」

動詞からできた畳語(同じ語を重ねてできたもの)には、「うきうき(浮き)」「いきいき(生き)」「みえみえ(見え)」「のびのび(伸び)」「あきあき (飽き)」「おちおち(落ち)」などがあります。このように動詞の連用形が重なることが多いのですが、終止形のものもあります。例えば、「ますます(増 す)」「みるみる(見る)」「泣く泣く」などです。

「山へ帰ったハイジは生き生きしてきました(この場合“生きます”という動詞を重ねて“生き生きします”という動詞になっています)」「田舎でのびのび育ちました」「みえみえのうそ」というように動詞、副詞、名詞としても用いられます。

畳語の形が定着してしまうと、「いちいち」(これは名詞「一(いち)」の畳語でしたね)元の語を考えながら使いませんから、振り返って「なるほどそうだったのか」と感じる語もあるのではないでしょうか。そこがこの畳語の楽しさですね。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第127回 畳語3「うすうす気づいてはいました」

今回は形容詞からできた畳語を見てみましょう。

「うすうす(薄い)」「あかあか(赤い)」「ちかぢか(近い)」「はやばや(早い)」「やすやす(安い)」「ふかぶか(深い)」「こわごわ(怖い)」などがあります。他にもいろいろ思い浮かびそうですね。 用法としてはいくつかあって、「こわごわ覗いてみる」のようにそのままの形で副詞として用いられるものや、「~と(ほそぼそと)」「~する(ひろびろす る)」を付けて用いるものがあります。中には「たかだか100円のことじゃないか」「ランナーは聖火をたかだかとあげた」のように、「と」がつくかどうか で意味の変わってしまうものもあります。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第128回 畳語4「またまたご冗談を」

「まだまだ」続く畳語、今回は副詞を畳語にしたものです。「もっともっと」「いつもいつも」「ついつい」「わざわざ(わざと)」「ただただ」「とてもと ても」などはよく使われています。重ねて意味を強調したり、転じて少し異なる意味になるものもあります。元々が副詞なので、畳語で使われても元の語との関係にあまり意外性がないかもしれませんが、気持ちを伝えるときには結構重宝しているものが多いのではないでしょうか。「夕方になると、ついつい赤提灯に誘 われて~」「この料理は、私たちのためにわざわざ作ってくれたものです」といった具合です。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第129回 畳語5「さあさあ、出かけないと遅れますよ」

畳語もいよいよ最終回です。まずは感動詞の畳語です。「あらあら」「あれあれ」「おいおい」「おやおや」「やいやい」「これこれ」「こらこら」「ねえね え」「まあまあ」など。重ねて意味を強調するという畳語の性格上、感動詞を畳語にしたくなる気分はとてもよくわかります。2つ重ねて終わらず、3つ4つ重ねて使うことだってあります。ではいよいよ最後に、畳語の仲間、準畳語をみて終わりましょう。「根堀り葉堀り」「二度と再び」「負けず劣らず」「善かれ悪 しかれ」「遅かれ早かれ」など、同じ語ではなく、似た語や反対語を重ねたものです。なかなか幅広いですね。畳語は日本語に限らず他の言語にもあり、古くラ テン語にも見られるそうです。人が言葉を使っていく上で、重ねて表現する手法は共通しているようです。(た)

<参考文献>
「日本語教育講座2 音声・語彙・意味」千駄ヶ谷日本語教育研究所/「日本語教育指導参考書13 語彙の研究と教育(下)」国立国語研究所/「日本語大辞典」講談社

バックナンバーの目次へ戻る

第130回 「萌え」も日本文化1

ある日の午後、高校時代の友人から奇妙なCCメールを受け取りました。『枕草子』の新たな写本が発見されたというインターネットの記事の紹介です。今ま での『枕草子』にない清少納言の未発表原稿が発見され、そこには『源氏物語』の感想が含まれていた、というではありませんか。「紫に萌ゆるをとこ、げにをこがまし。(紫の上に萌える男はたいそうみっともない)」そう、その友人は、最近の流行語「萌え」のルーツにいたく興味をそそられたのです。ネットの記事 のタイトルは、「『萌え』の起源は平安年間?」。(白)

バックナンバーの目次へ戻る

第131回 「萌え」も日本文化2

清少納言の使った「萌ゆる」という語は、今の流行語「萌え」の語の置かれた状況にぴったり合いますね。いい大人である光源氏が八才も年下の少女紫の上に 「萌え」、それをオバチャン代表清少納言が「をこがまし」と言うのですから。「萌え」「萌ゆる」の言葉自体は、平安の前の奈良時代からありました。『万葉集』の「いはばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春となりにけるかも」(岩の上をほとばしる滝のほとりの早蕨が萌え出る春に、なったことだなあ)がその代表 例です。ただしこの歌では「芽が出る」という意味です。現代語でも「若草が萌える」などと言いますよね。そもそも、流行語の「萌え」はどういう意味なので しょう。前回①で紹介したネットの記事「『萌えの起源は平安年間?」には、「ある人物やものに対して、深い思い込みを抱くようす」で、その対象は実在のも のだけでなくアニメなどのキャラクターに及ぶ、とあります。でもむしろ、アニメやマンガ、ゲームのキャラクターへの執着を表すことばとして、「萌え」は使 われ始めたのではないでしょうか。(白)

バックナンバーの目次へ戻る

第132回 「萌え」も日本文化3

実は、1回目にご紹介した、友人が回したネットの記事は、嘘の記事でした。流行語「萌え」の用法の起源は平安時代ではありません。別の友人から指摘さ れ、彼は騙されたことに気付いたそうです。その記事をよく見ると、隅に「虚構新聞」の文字が。私も危うく騙されるところでした。流行語「萌え」の用法の起源は、1990年代に人気のあったアニメキャラクターや声優の名前だという説の他、「燃え」のミスタイプ説も有力です。「熱中する」の意味の「燃える」な ら、平安時代からあります。「思ひ(旧仮名遣い)」の「ひ(火)」が燃える、というように。恋の火が燃える、というような言い方は歌謡曲にもよく出てきま す。その意味を、「オタク」の人がかわいいキャラに熱中することに限定したのが「萌え」なのでしょう。わざとミスタイプして隠語っぽく使うのは、まさに ネット上のオタクの仕業に思えます。(白)

バックナンバーの目次へ戻る

第133回 「萌え」も日本文化4

あるネット記事によると、「萌え(Moe)」は「わび」「さび」に次ぐ日本独自の美的感覚として海外でも認知度が高まっているそうです。二〇〇五年の流 行語大賞にトップ10入りし、日本での認知度もさらに高まりました。「オタク」とセットにされがちなこの言葉にマイナスイメージを持つ人はまだまだ多いと思います。私もその一人です。でも、元来は生命の兆しを意味する美しい言葉、また自然現象を感情の比喩として使う点では、掛詞の伝統を踏まえた、いかにも 日本的な言葉とも言えます。いつの日か日本文化を代表することばになるのかも知れません。(白)

〈参考〉

「虚構新聞」こちら/ 「はてな diary keyword 」こちら/ 「ウィキペディア」こちら/ 「同人用語の基礎知識」こちら/ 「日本語俗語辞書」こちら

バックナンバーの目次へ戻る

第134回 色の名前1

瑠璃色、鴇(とき)色、萌黄色・・・。日本語にはたくさんの美しい色の名前がありますね。 今回はそんな日本語の色の名前について、ちょっと違った側面から考えてみましょう。 下に挙げたのは、日本語の基本的な色の名前12色です。 これらの色の名前を、「日本語」という観点から二つのグループに分けてみてください。

白・灰色・黒・茶色・赤・桃色・橙(だいだい)色・黄色・緑・水色・青・紫

・・・できましたか?下は、分類の一例です。

A: 白・黒・茶色・赤・黄色・青

B: 灰色・桃色・橙色・緑・水色・紫

いかがでしょうか。皆さんが分けられたものと同じですか。 他にも色々な分け方があると思いますが、もし他の分け方をされた方は、 上のA・Bグループがどんなルールに基づいて分類されたものか、考えてみてください。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第135回 色の名前2

前回、日本語の基本的な色の名前を下のA・B、二つのグループに分類しました。

A: 白・黒・茶色・赤・黄色・青 

B: 灰色・桃色・橙色・緑・水色・紫

二つのグループは、どんなルールに基づいて分類されたものでしょうか。 ここでヒントです。皆さんは何色のTシャツを持っていますか。 上の各色の後ろに「Tシャツ」をつけて言ってみてください。

Aグループの色の名前は、「白いTシャツ」または「白のTシャツ」のように、 「~い」または「~の」という言い方になったのではないでしょうか。 それに対してBグループは、どの色も「~の」という言い方になったはずです。 「灰色のTシャツ」、「紫のTシャツ」とは言えても「灰色いTシャツ」、 「紫いTシャツ」とは言いませんよね。では、どうしてそのような違いがあるのでしょうか。 次回は、その理由を探ってみたいと思います。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第136回 色の名前3

古代、日本語の色の名前は、「アカ」「アヲ」「シロ」「クロ」の たった4つしか存在しなかったそうです。これらの色は、「~である」 という意味のことば「シ」をつけて、「アカ・シ」「アヲ・シ」「シロ・シ」「クロ・シ」 と使いました。「~シ」という言い方はやがて一語になり、現在の「赤い」、「青い」という 形容詞にまでつながっています。しかし、色名はやはり4色では不十分だったのでしょう。 具体物を示す方法で、様々な色の名前が作られました。例えば、「ミドリ」は「芽出る」が語源で、 本来草木の若い芽を言ったのが色の名前に転用されたものだそうです。「ムラサキ」は紫の染料の 材料となるムラサキという植物にちなんで、橙(だいだい)色は正月飾りにも使われる橙というミカンに 似た果実にちなんでつけられた名前です。桃色や灰色が何からつけられた名前かは明らかですよね。 色の名前①の冒頭で触れた、瑠璃色、鴇(とき)色、萌黄色もこの方法で作られた色の名前です。 これら後からできた色の名前が登場した時代には、「~である」という意味を表すとき、「シ」ではなく 「ナリ」ということばが使われるようになっていたとのことです。このため、現在においても「緑い」 「紫い」「桃色い」「灰色い」などの形容詞はないという訳です。しかし、これまでの説明ではまだ解決 できていないものがあります。「黄色い」と「茶色い」です。これらはどうして形容詞で言うことができる のでしょうか。(み)

バックナンバーの目次へ戻る

第137回 色の名前4

「桃色い」「灰色い」とは言えないのに「黄色い」「茶色い」と言えるのはなぜでしょう。一説には、「キイロ」「チャイロ」という色の名前が3音節ででき ているため、「キイロイ」「チャイロイ」としても長くならず、形容詞1語として不自然に聞こえないからだと言われています。ただ、「黄色い」「茶色い」と いうことばが使われ始めたのは江戸時代末から明治時代という新しい時代のことだそうです。それもあってか、今でも地域や年代によってはこれらの言い方に違 和感を覚える人がかなりいるとのことです。

私が大好きな宮沢賢治の作品で、「黄色な」「茶色な」という言い方が使われているのを見かけたことが あります。私ははじめ、賢治独特の表現なのかと思っていました。けれども実は、これらは「黄色い」「茶色い」という言い方が出てくる前の言い方だったそう です(今回は詳しい説明は省きます)。もしかすると、岩手の方言に古い言い方が残っていたということなのかもしれませんね。

このような経緯を説明するかどうかは別として、日本語教育で色の表現について教える際は、最低限、教師が色の名前の文法的な性質を把握し、分かりやすく教えていくことが必要だと思います。

普段、何気なく使っている色の名前ですが、その背景には歴史、文法、音声、地域差などに関する様々な事象が隠されています。皆さんも日本語について何か疑 問を感じたら、ぜひ他の人に聞いたり調べたりしてみてください。その先にはきっと、奥深い日本語の世界が広がっているはずです。(み)

<参考文献>
・『大野晋の日本語相談』朝日新聞社
・フリー百科事典『ウィキペディア』(「色」)こちら

バックナンバーの目次へ戻る

第138回 幼児語1 -初めての言葉-

幼児語は、人が初めて使う“意味のある言葉”です。「ワンワン(犬)」「ブーブー(車)」「マンマ(ごはん)」「ネ(寝)ンネ」「ダ(抱)ッコ」「タ(立)ッチ」「メッ(駄目)!」。みなさんは子供の頃や子育ての時期、どんな幼児語を使いましたか。

幼児語を話し始める前には、独り言のように発音練習をする喃語(なんご)(「マンマンマンマン」「ブーブーブーブー」など)が1歳位までみられますが、 喃語(なんご)はどの言語圏の子どもも似ているのだそうです。日本の子どもも、英語やフランス語の音声に近い音も出していて、言葉をスタートするにあって どんな言語でも受け入れられる準備をしているということです。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第139回 幼児語2 ―幼児語の作られ方・音1―

喃語(なんご)での発音練習を経て、幼児語が始まります。幼児語は幼児自らが作り出すというよりは、周りの大人が乳幼児に語りかける言葉です。赤ちゃん言葉、育児語、Motherese(マザリーズ)などとも呼ばれます。

過剰な幼児語は使わないで、初めから成人語を教えたほうがいいという意見もありますが、成人語に移行する2歳位までの短い期間、発声の器官が未発達の幼児とコミュニケーションを行うのに幼児語は強い味方です。

では、幼児語にはどのようなものがあるでしょうか。

まず言葉の成り立ちとしては、理屈で覚えるわけではないので、“音から連想しやすい”という特徴があるようです。「ワンワン」「モーモー」「ポンポン(腹)」など音をそのまま再現した擬声(音)語はその典型ですね。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第140回 幼児語3 ―幼児語の作られ方・音2―

幼児語は音のイメージを使ってそのものへの“接し方を教える”という性質も備えています。「バッチイ(汚い)」「ガゴ、ガーゴー(虫)」「ドンスル(落 ちる)」といった危険を教える強い響きの濁音。「チクン(痛い)」「アチチ(熱い)」は危険、痛みを教える「チ」音。「チャンコ、オッチン、トン(座 る)」など動作の完了は撥音「ン」。「オ(起)ッキ」「タ(立)ッチ」「メッ(駄目)」など力を込めた動作には促音「っ」などです。

また、「トントン(軽く叩く)」「アムアム(食べる)」のように同じ音を繰り返すことで、動作の反復を表現する特徴もあります。繰り返しは幼児語には多 いのですが、「テテ(手)」「メメ(目)」などのように、同じ音を重ねることで発音を容易にしているという面もあります。「血ガガ出た」なども発音をしや すくするための誤用のようです。わが家の娘も「血ガガ出た」「蚊ニニ刺された」と言っていましたが、大きくなって聞くと「頭ではわかっているのにどうして もそう言ってしまっていた」ということでした。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第141回 幼児語4 ―幼児語の作られ方・品詞と活用―

幼児語の大きな特徴として品詞分類はあてはまらないということがあります。「アンヨ」は「足」という名詞だけでなく、「歩く」「歩こう」「歩きたい」 「歩いて」「歩くの?」など動詞として、また「足が痛い」という意味で使うときもあり、一つの語で名詞や動詞、動詞の活用や文までカバーしてしまいます。

さらに、幼児は単に大人から聞いたことを模倣しているだけではなく、自分で意味を広げて使います(拡張使用)。近所の犬を大人が「ワンワン」と示すと、 幼児はその特定の犬だけでなく、自分なりに共通性をつかんで、小さな子犬もぬいぐるみも、初めて見る絵本やテレビの中の犬も、そして猫も馬も象も「ワンワ ン」と呼んで大人をあわてさせます。繰り返し聞いて覚える、というだけでなく、自分なりにカテゴライズしたり応用する力があるんですね。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第142回 幼児語5 ―幼児音―

「おいチ(し)い」「チュ(す)き」「どうジョ(ぞ)」「ダ(ら)いおん」など、今回は幼児語の中でも、幼児音をみてみましょう。

大人が使う と何かと物議を醸すのがこの幼児音ですが、幼児の場合は、筋肉が緊張する音を発音しづらいため、他の音に置き換わって出る音です。音声器官の筋肉が発達す るつれて自然に抜けていきます。わが家の娘は小学生の時、まだ「チュー(通)勤快速」と言っていましたので、一つ一つの音について獲得する時期の個人差は 大きいようです。

音の置き換えには一定の傾向がみられます。

サ行音が「チャ(さ)・チ(し)・チュ(す)」、タ行音の「チュ (つ)」。同じようにザ行音も「ジャ(ざ)」「ジュ(ず)」「ジェ(ぜ)」「ジョ(ぞ)」となりやすいようです。「かチャ(さ)」「もチ(し)もチ (し)」「おやチュ(つ)」「どうジョ(ぞ)」など、これはいろいろありますね。また、ラ行音やハ行音も置き換わったり、子音が省略されたりします。「ド (ろ)うそく」「こエ(れ)」「オ(ほ)ん」「イ(ひ)とつ」。逆に「たラ(だ)いま」「ちょうラ(だ)い」のように語中では「ラ(だ)」になったりしま す。

これらは韓国や中国などアジアから来た学習者が母語にない発音で苦労しますが、日本人も子どもの頃には発音しにくい音なんですね。(た)

バックナンバーの目次へ戻る

第143回 幼児語6 ―方言―

幼児語は、江戸時代にも「ダッコ」「オンブ」「オンリ(下りる)」「テテ(手)」などが既にあったそうです。時代を下って受け継がれてきたものだと考えると楽しくなりますね。このように全国広く共通している幼児語がある一方で、方言もあります。

幼児語は、お母さんの出身地の言葉より、子育てをする地域の言葉が受け継がれるようです。私の場合も、娘たちには保育園(東京)や近所で使われる言葉を見 聞きしながら使っていました。そのため、自分自身が育ったときの幼児語はすっかり忘れていましたが、この原稿を書きながら思い出しました。私の出身は香川 県高松市です。讃岐うどんの本場です。うどんは「オピッピ」(これは香川県だけの方言だそうです)、魚は「オビー」と言っていました。

みなさんは、どんな幼児語で育てられましたか。久しぶりに懐かしい情景といっしょに思い出してみるのもいいのではないでしょうか。(た) 

<参考資料>
・「子どもの発達を探る」小嶋秀夫・速水敏彦編 福村出版
・「月刊言語」9月号(2006) 大修館書店
・「全国幼児語辞典」友定賢治編 東京堂出版
・「こどものことば 習得と創造」伊藤克敏著 勁草書房

バックナンバーの目次へ戻る

第144回 「手術」は「しじつ」? 拗音の直音化1

皆さんは「手術」という言葉を「しゅじゅつ」と発音していますか?ゆっくりなら「しゅじゅつ」と言えますね。でも、かなり速く言おうとすると「しゅずつ」「しゅじゅちゅ」などになってしまいませんか?どうしてそうなってしまうのでしょうか。

「しゅ」も「じゅ」も「つ」も母音はウです。母音が同じなので、音の違いは子音だけです。その子音が口の中のどこで作られているかと言うと、「しゅ」は歯茎の後ろのほう、「じゅ」も同じ、「つ」は歯茎の前のほうで、どれも近い場所です。わずかな舌の移動で音の違いを作っていますから、発音が難しいのだと考えられます。ほかにも、「輸出」の「しゅつ」、技術の「じゅつ」の部分などが、同じ理由で言いにくいですね。

では、アナウンサーのような言葉のプロは、正確に「しゅじゅつ」と言えるものなのでしょうか。(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第145回 「手術」は「しじつ」? 拗音の直音化2

言葉のプロであるアナウンサーは、「手術」という言葉をどのように発音しているのでしょうか。『NHK日本語発音アクセント辞典』によると、「手術」「技術」などは「放送では[シジツ・ギジツ]に近く発音することを認めています。(中略)[シュ]や[ジュ]を含むことばの中で特に発音しにくいものについては、[シ][ジ]に近い発音をしてもよいことにしています」とのことです。

Exciteの記事(2006.7.30)には、民放アナウンス部担当者の話として、「手術」だけでなく「新宿」なども発音しづらいので、「しんじゅく」「しんじく」どちらでもいいことになっているということが紹介されています。

皆さんはこのような容認の事実をどう思いますか?アナウンサーなのにけしからん?(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第146回 「手術」は「しじつ」? 拗音の直音化3

放送の世界には、「手術」を「しじつ」、「新宿」を「しんじく」と発音してもいいという考えがあるということを前回ご紹介しましたが、これには「プロなのにけしからん」と腹を立てる人もいるようです。でも、アナウンサーといえども口の中の構造は私たちと同じです。言い間違いを極力避けるための容認された発音ということだと思います。実際、NHKでも民放でも、正しい発音は「しゅじゅつ」「しんじゅく」であって、そう発音するのが望ましいという考えを持っています。

テレビやラジオ放送のアナウンスだけでなく、私は電車のアナウンスでも「次はしんじく」という言い方を聞いたことがあります。公共の場では、言い間違えたり、発音しにくそうにしたりするのを避ける必要があるからでしょう。(こ)

バックナンバーの目次へ戻る

第147回 「手術」は「しじつ」? 拗音の直音化4

放送の世界には、「手術」の発音は「しゅじゅつ」でなくてもよいとの考えがあるとのことでしたが、テレビ・ラジオ放送や電車の車内放送で「しゅ」「じゅ」を「し」「じ」と発音していることに気付いている人は、あまり多くはないようです。当校の日本語教師養成講座の受講生に聞いてみると、気付いている人は1割以下です。それぐらい、耳を素通りしているということですから、「新宿」を「しんじく」と発音しても、問題はないという証拠でしょう。

ちなみに私は、日本語教師になる前から「手術」を「しじつ」、「新宿」を「しんじく」と発音する人がいるなぁとは思っていましたが、お年寄りや方言としての言い方だと思っていました。放送で認められている発音だと知ってからは、自分でもときどき使ってみますが、確かに発音しやすいですね。(こ)

〈参考文献〉
『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』NHK出版1998年4月1日
Excite Bit 手術の読みは「しゅずつ」「しじゅつ」でも通じるのか

バックナンバーの目次へ戻る

 
 

お電話でのお問い合わせ先

TEL:03-6265-9570 9:00〜17:30(日・祝日除く)